連載 おとなが読む絵本——ケアする人,ケアされる人のために・220
春の陽光,舞う昆虫たちとの語らい
柳田 邦男
pp.518-519
発行日 2025年6月10日
Published Date 2025/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.091713550350060518
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表現活動をする作家や絵描きという“人種”の多くは,何かひとつのことに興味を抱くと,ひたむきにそのことにこだわり続ける傾向が強い。そうでなければ,何かの分野で他者に抜きん出た作品を創作することはできないだろう。そのこだわり方というものは,中途半端なものではない。
鳥や昆虫や魚などの生きものを緻密に生き生きと描き,しかもその絵がそのまま絵本の絵になるような絵描きは,舘野鴻さんが突出している。春が来て,近くの散歩道沿いの緑地や川べりで,草花を飛び交う蝶や蜂などを見ると,私の頭のなかでは,舘野さんの絵本で学んだ昆虫の拡大図や生態が百科事典を引くように浮かんでくる。女の子のなかには,虫を嫌ったり怖がったりする子が少なくないが,私の子どもの頃は,男の子の仲間たちと,野山でトンボやイナゴ,バッタ捕りを楽しんだものだった。それでも,土のなかの幼虫捕りまではしなかった。しかし,舘野さんは大のおとななのに,地面を這いつくばり,土の穴のなかの幼虫まで採集するのだ。
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