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知人の薦めもあり,映画「ハドソン川の奇跡」を視聴しました.これは,2009年1月15日,午後3時30分頃(米国東部標準時)に,ニューヨーク(ラガーディア空港)発シャーロット経由シアトル行きのUSエアウェイズ1549便が,ニューヨーク市マンハッタン区付近のハドソン川に不時着水した航空事故にもとづいて描かれたものです.乗務員5名を含む155人を乗せて離陸した直後に鳥(カナダガン)の群れに遭遇し,両翼のエンジンがこの「バードストライク」により停止し機長は当初,元のラガーディア空港に戻るか進行方向の延長線上にあるニュージャージー州テターボロ空港への着陸をめざしていましたが,長年にわたるパイロットとしての経験から,高度と速度が低すぎるため空港への着陸は不可能と判断し,市街地を避けハドソン川へのきわめて難易度の高い「不時着水」を判断し,見事に全員生存の偉業を成し遂げます.そして機長らは一躍英雄として賞賛されるところでしたが,そのような危険な判断に対し疑問が投げかけられ,近くの空港に即座に戻るべきではなかったか?など,事故調査委員会(国家運輸安全委員会,NTSB)の査問が開始されます.
映画のあらすじと評価は皆様に委ね,詳細を述べることは避けますが,フライトレコーダーをもとにしたシミュレーションでは当初は近隣の飛行場に安全にたどり着ける結果となります.しかしながら,このシミュレーションでは何度となく練習をしたパイロットが,事故直後に何の躊躇もなく空港に向かっていることから,事故による心の動揺やマシンチェックなどの「人的要因」が考慮されておらず,それを導入すべきということで35秒(それでも短いという意見もありましたが)のインターバルが設定され,再びシミュレーションが行われ,想像に難くない結果となります.そして機長の判断は一か八かのものではなく,これまでの十分な経験にもとづいたものであったことが認められます.ヒトが危機に遭遇した時に,与えられた時間は様々でありながらも,知識(力),経験,そして技術などの「人的要因」にもとづいて「思考」し,「判断」を下すのでしょうが,これらの要因が豊富であればあるほど,判断までの時間も短縮されうるのでしょう.「人的要因」としての「考える」ということの重要性を再認識させられたことでした.
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