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はじめに
新しい治療法によって癌が治癒する可能性が従来の治療法に劣らないと判断された場合,その治療法が勝ち残る手段の一つはQOLにおける優位性を示すことである.現在QOLは質問票で「測定」するのが普通である.それが真に正確で再現性のある指標と言えるかどうかについては様々な見解があるものの,QOLが多くの臨床試験で主たる評価項目に並行して測定されているのも事実である.このような場合にしばしば用いられている「測定器具」,すなわち質問票はEORTC QLQ-C30である.臓器別の追加質問票も存在し,胃癌ではSTO22がこれに相当する.内視鏡下手術後のQOLは開腹術後より良いに決まっているでしょうと言うのは思い込みに過ぎないので,きちんと測定しようと思えば,痛みや倦怠感,日常生活への支障や社会復帰の度合いなどを評価すればよいので,この質問票で十分であると考える1).
しかし,胃外科には再建法の工夫というもう一つの重要なテーマがある.Billroth Ⅰ法かRoux-Y法か,空腸パウチを使用するか否か,観音開き法かdouble tract法か.こうした比較に用いるには,QLQ-C30シリーズでは少々荷が重い.ダンピング症状をはじめとする,胃切除術後に特化した症状の測定も必要となるからである.こうした要求に応えるべく,待望の調査票が短期間の間にわが国で3種類開発された.いずれもきちんとした手順に則って開発されたものである.再建は内視鏡下手術のやや苦手とするところであるため,仮に手数が多いが良好なQOLをもたらす再建方法が存在したとして,これを行うために開腹するか,内視鏡下手術の低侵襲性を優先して再建法には目をつぶるか.突き詰めればこのようなジレンマも生じるかもしれない.本当に優れているならどんな再建法でも腹腔鏡下でやりますよと頑張ってくれる医師もいるのだが,そうしていただくためには本当に優れていることを示す必要がある.また,麻酔科医をはじめとする手術室スタッフも手術室も有限で貴重な「資源」なのであり,実臨床における手術時間はその手術を提供するにあたって現実的と考えられる範囲にとどめるべきである.いずれにしても,われわれはまずは各術式・再建法の価値と限界を把握しなければ先には進めない.読者諸氏にはこれらの調査票から一つをお選びいただき,説得力のあるデータを出して胃外科の進歩につなげていただきたい.
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