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はじめに
1992年当時,筆者は東京築地の国立がんセンター病院胃外科でチーフレジデントとして修練を積んでいた.当時の胃外科医長 丸山圭一先生の著作1)には,次のような記述がある.「再建術式は幽門側切除でのBillroth-Ⅰ法と全摘でのインターポジションが大部分を占めている」.その後,2001年に日本胃癌学会から胃癌治療ガイドラインが出版され,昨年改訂第4版が出された.その中における再建法の記載を表1に示す.内容は第3版と全く同じである.コメントとして「それぞれに長短がある」とだけ,ごく簡単に記述されている.ちなみに第2版には再建法そのものに関する記述がなかった.どの再建術式を行っても“間違いではない”ということであるが,いささか心もとない.丸山先生が好んで施行されていた幽門側胃切除後Billroth-Ⅰ法(以下B-Ⅰ法)や胃全摘後空腸間置法が否定されたわけではないことは理解できるが,強く推奨されているわけでもない.結局のところ,現状は施設の方針あるいは外科医の好みに委ねられてしまうということであろうか.
最近の状況として,2014年の第44回胃外科・術後障害研究会において配布された全国117施設へのアンケート調査結果(表2)によると,幽門側切除における再建法で,残胃の大きさで再建方法が使い分けられていることがうかがえる.また,2013年の当教室における胃切除後再建術式を表3に示す.胃全摘後は全例Roux-en-Y法(以下,R-Y法)による再建であったが,先のアンケート調査結果からも,各施設(各外科医)で基本的再建方法はあるものの,症例によって再建術式を選択する時代が到来しつつあることを感じる結果である.「それぞれに長短がある」わけであるから,症例によって長所が活かせる術式を選択する必要があると考える.そのためにも,これまでの再建術式の変遷を知り,その理由を学ぶことは重要であり,これからの再建術式を考える一助となると思う.
まず,消化管癌手術の歴史は,胃癌手術の成功から始まっていることを再確認したい.長期生存を果たした第1例目は,ご存知Billroth先生が1881年に行っている.症例は43歳女性で,術後115日生存の記録が残っている.その際,十二指腸は残胃小彎側に吻合された.その後の2例は手術死亡であり,長期生存の2例目は,最初の成功から通算4例目の52歳女性で,2年半以上生存したらしい.その際,Billroth先生は十二指腸の吻合を残胃大彎側に行っており,それが今日のB-Ⅰ法の原型となっている.さらに,Billroth先生はおそらく吻合部の緊張軽減のため,1885年にBillroth-Ⅱ法(B-Ⅱ法)を考案している.当時の外科医の苦闘,またBillroth一門の努力は,岡島邦雄先生が詳細に紹介している.「胃癌診療の歴史」(「胃がんperspective」メディカルレビュー社,に連載)は,若手にもぜひ一読していただきたい力作である.その後,現在も繁用されているR-Y法は1893年,Roux先生により考案された.また,噴門側切除は1897年Mikulicz先生,胃全摘は1897年Schlatter先生により最初の成功例が報告されている.すなわち胃癌に対するほとんどの術式の原型は19世紀に完成していることがわかる.残念ながら,130年以上にわたって本質的には変わっていないことをわれわれは認識しなければならない.ただ,空腸間置再建の成功は千葉醫科大學教授 瀬尾貞信先生が1942年に世界初の業績として発表されている2,3).わが国の偉大な先人のお一人として誇りに思いたい.高橋孝先生の「胃癌外科の歴史」(医学書院,2011)もまた名著である.Billroth先生以後,近代に至るまで詳述されている.これもまた若手にお薦めの一冊である.
言うまでもなく胃癌手術における黎明期は,安全性の確立が最大の課題であった.1900年前後では70%を超える直接死亡率が報告されている4).安全性確立のため様々な再建術式が考案され,淘汰され,それが変遷となっている.一口にB-ⅠあるいはⅡ法といっても,様々な工夫が報告されている(後述).最近ではさらに手縫い吻合,器械吻合などの違いもある.安全性がほぼ確立された現在では,術後QOL,すなわち,いかに胃切除後症候群を防ぐかの観点から再建術式の長短が論じられていると思う.また,これからは各再建術式の長所を活かした個別化がめざすべき方向だと考えているので,最後に少々触れたい.
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