昨日の患者
妻を偲ぶ
中川 国利
1
1宮城県赤十字血液センター
pp.67
発行日 2015年1月20日
Published Date 2015/1/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407210612
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- 文献概要
一人の異性と巡り合い,子供をもうけて慈しみ育て,そして共に白髪になるまで手を携えて人生を楽しめれば理想的な夫婦である.しかしながら現実は,様々な想定外の問題が生じる.病死した妻を慕い続けるSさんを紹介する.
さる講演会後の懇親会場で,60歳代中頃の男性から声を掛けられた.「私の女房は,30年ほど前に先生に乳癌の手術をしていただきました.当時私は猛烈社員で,夜分遅くに帰宅すると妻が食卓に伏せて泣いておりました.聞くと,『乳房にしこりを触れるので病院に行くと,乳癌かもしれない』と言われ,手術を勧められたそうです.将来を憂えて泣きじゃくる妻を励まし,とにかく先生の手術を受けました.当時3人の幼い子供がおり,妻が乳癌となり大変心配しました.遠方に住む義母が同居して子供らの世話を,さらには入院中の妻に付き添ってくれました.手術の経過は良好でしたが,術後の癌化学療法で髪が完全に抜け落ちました.それでも妻はかつらを着け,腫れた左腕で育児や家事に頑張りました.妻の病状を見かねた義母が近くに転居し,子供らの世話をしてくれました.しかしながら多発性に肺や骨転移をきたし,手術7年後に亡くなりました」.
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