老医空談・10
医は人なり
斉藤 淏
pp.964-965
発行日 1989年7月20日
Published Date 1989/7/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407210407
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医学会の会長は,同郷の誼しみからでしょうか,私に,遠くから参会された学者達のために歓迎の挨拶をするようにと命じられた.昨年の日本消化器外科学会(32回)の招宴の席であった.そこで私は,百万石城下の古都の美しい見どころはもちろん,金沢市民に染みついている伝統芸術の紹介につとめ,新々医学に精進している先生方には縁遠いようにも思われる芸術への橋渡しには恰好なところであると申し添えたのでした.
このとき述べたことを中心に,まず,11年前同市で開催された日本外科学会の会長招宴の思い出から始めましょう.開会を待っていた一寸の間のこと,由緒ある大広間の照明が静かに消えて薄明りから真っ暗に移ろうとする時,笛の音がどこからともなく聞こえてきた.静寂,心身一如の境地へと誘い込まれる.数百人の外科医は,一人残らず術中の心境になっていたにちがいない.心憎い演出.昨年のテーブルでも,招かれた老外科医の中にはこの思い出を語り,あの時の老伶人の存命を聞いて喜ぶものがあったのでした.
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