老医空談・9
生き甲斐とQOL
斉藤 淏
pp.690-691
発行日 1989年5月20日
Published Date 1989/5/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407210362
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越中小原節—三千世界の松の木ァ枯れても あんたと添わなきゃ,娑婆へ出た甲斐がない—日本五大民謡の一節,その起源は元禄時代という.私は10歳ぐらいの頃,盆踊の輪に加わって調子を合わせていた.もちろん,娑婆も甲斐も全くわかっていなかった.その後,わかったと言えるような機会は医学生の時にあった.左大腿部の腫瘍摘出のあとで肉腫と告知された時である.自作の切片によって確実に悪性が否定された時の感動,生命のひらめきと言うか,生き甲斐と言うか,その瞬間に生涯を貫く棒のようなものが打ち込まれたのです.今日までの臨床医生活の心棒になっていると思っている.
今日の医療は激変した,この時にあたかも新顔のように,生き甲斐と並んでQOLの字がしばしば眼にとまるようになった.これらの言葉の前置詞のように,全人的治療(看護)が据えられている.
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