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胃拡大観察の対象は,胃小区を構成する微小単位であるSP や areolaなどであり,各々,組織切片ではgast—ric pit,covering epitheliumに相当する(図1).著者らは,拡大内視鏡に先立つて,各種の胃隆起性病変のSP.areolaの変化を観察し,それが,背景にある病理組織学的変化を示唆している事実に注目した.即ち俯瞰図が組織像を類推するのに有用である事を意味する.表1は,それに基づく分類であり,表2は各パターンの特徴を示している.過形成ポリープは,主にⅠ,Ⅱ,Ⅲのパターンを,また,分化型癌はⅤのそれを示す.いわゆる境界領域病変の拡大像は過形成ポリープと分化型癌との中間的な変化ではなく,寧ろ,分化型癌の像に共通性を見出す事が注目される.拡大内視鏡像も,原則的には,実体顕微鏡像に従うものと思われる.扁平隆起を呈する異型上皮の拡大像は,概括的には,2種類の変化によつて特徴づけられるようである.第一の変化は,異型上皮のSPが正常のそれと比し細小化する傾向にあり,その配列は不整である,この不整な‘きめの細かい溝状構造’は,変化の程度が穏やかなもの(図3,図4)から,激しいもの(図5,図6)まで,異型上皮の範疇で,段階が認められる.第2の変化は,異型上皮のareolaが大小不同と形態の多様化を示し,それを構成する輪郭は,不規則なやや硬い線分からなつている(図7,図8).異型上皮の実体顕微鏡観察例14症例と拡大内視鏡観察例15症例の拡大像に基づいて判断すると,‘きめの細かい溝状構造’を呈する前者の変化が異型上皮を代表する拡大像と推定される.これは,分化型癌のb.Microditch Patternと類似性が強く,拡大像上,両者の鑑別に興味が持たれる.正常粘膜との懸隔を明瞭にするためにSPの拡大内視鏡像を図2に示した.図3および図4は,先に述べた第一の変化の中,穏やかな例の実体顕微鏡像,拡大内視鏡像である.SPの配列の変化は,極めて穏やかである.図5および図6は,SPは細小化して著明な不整配列を呈し,激しい列の実体顕微鏡像,拡大内視鏡像である.図7および図8は,先の第二の変化の実体顕微鏡像,拡大内視鏡像である.areolaの大小不同,形態の多様化,硬い輪郭が認められる.
異型上皮は分化型癌との鑑別上,病理組織学的にも問題をはらむ領域であり,拡大観察においても,両者の間に明確な一線を引き得ない事は当然と言える.それに比して,異型上皮と過形成ポリープの鑑別は拡大像でも容易である.異型上皮の拡大像の特徴を,概括的に二つの異なった典型に求めた.臨床病理学的立場から,拡大像と病理組織との,この分野における関連性の解明が望まれる.
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