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はじめに
膵臓手術では病巣部を十分に露出し,視,触診によつてその病変を的確に把握するとともに,解剖学的構築にもとづいて特に重要血管を損傷しないよう剥離をすすめることが必要である.それには術前の選択的腹腔動脈撮影や上腸間膜動脈撮影により動脈の走行及び腫瘍や病変による血管の圧排,侵蝕,中断像等を検索するとともに,静脈相では門脈,上腸間膜静脈,脾静脈などの走行や圧排,浸潤などの変化についても熟知しておく必要があり,血管造影により術前に切除の範囲あるいは局所切除の可能性について十分検討しておかねばならない.膵臓の動脈分布1)は比較的一定しており,膵頭部は前ならびに後アーケードからなり,前アーケードは胃十二指腸動脈から分岐する前上膵十二指腸動脈ならびに上腸間膜動脈から分岐する前下膵十二指腸動脈,後アーケードは胃十二指腸動脈から最初に分岐する後上膵十二指腸動脈ならびに上腸間膜動脈より分岐する後下膵十二指腸動脈によつて構成される.上膵十二指腸動脈の胃十二指腸動脈からの分岐はほぼ一定しており,後上膵十二指腸動脈を分岐した後に前上膵十二指腸動脈を分岐する.前・後下膵十二指腸動脈の分岐は不規則であつて,多くは共通管としての総下膵十二指腸動脈となり,あるいは2本が別々に上腸間膜動脈より分岐するが,空腸動脈と共通管となつて上腸間膜動脈の左壁からでることもある.膵背動脈は頸部を養う.これは通常,脾動脈から分岐するがときに腹腔動脈,上腸間膜動脈,総肝動脈などから分岐することがあり左右枝にわかれる.右枝は,前上膵十二指腸動脈の左枝とともに膵頭部を横切り,前膵動脈アーケードを構成する.膵横動脈が膵臓の背下面にみられ,これは膵背動脈の左枝であることが多い.膵大動脈及び膵尾動脈は脾動脈より分岐して膵体部及び膵尾部を栄養する.なお上腸間膜動脈より膵頭部背面を通る.aberantの右肝動脈が出ることがあり膵切除の際注意を要す.膵臓の静脈分布については膵体部静脈は主として脾静脈が関係するが,そのほか左胃大網静脈,上腸間膜静脈,下腸間膜静脈などに流入するものがある.脾静脈は脾門部に始まり,全経過にわたつて膵体尾部背面を走るが3本ないし10数本の短い静脈が膵体尾部から不規則な間隔で流入している.時には上腸間膜静脈下腸間膜静脈,左胃大網静脈の近位端近傍に流入していることもある.膵十二指腸静脈は膵頭部ならびに十二指腸からの血流をうけるが,普通比較的大きいものが2〜3本あつてそれぞれ上腸間膜静脈あるいは門脈の右壁に流入している.脾静脈と上腸間膜静脈は膵頭部背側でほぼ直角をなして合流し門脈となり右上方にすすみ十二指腸の後側を通つて肝門部に達する.下腸間膜静脈は脾静脈,門脈起始部,上腸間膜静脈などにほぼ同頻度で合流する.
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