Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
はじめに
突如としてはじまる上部消化管からの大量出血に対して,いまのところ非観血的療法は無効のことがしばしばで,頼りになるものではないが,さりとて外科的治療といえども完全に満足できるものはない.と最初から書きはじめると,あるいは消化器外科医からなにを生意気なとお叱りをうけるかもしれない.しかし,上部消化管大量出血例においては全身状態不良で,心,肺,腎などに慢性疾患があつたり,あるいは重症糖尿病に罹患していたりする高年者であることが決して少なくない.また最近急速に関心がたかまつている急性胃・十二指腸潰瘍(ストレス潰瘍)では上部消化管大量出血で発症する以前に火傷とか中枢神経系のひどい外傷をうけているものもしばしばあるわけである.ややふるい文献であるが,Hallら1),Fosterら2),Kirtleyら3)によれば,ストレス潰瘍の30〜95%という高い入院死亡率が,現在の外科治療が決して満足できるものでないことを端的に物語つている4).大量出血を起こしたストレス潰瘍を早期に積極的に手術するという傾向もみられるが,はたしてそれがもつとも良い治療法なのかどうか明々白々な成績はないようである.Menguyら5)のように,衰弱した多発性のストレス胃潰瘍患者に全摘に近い手術を行なつて,再出血例がなく,死亡率も20%であるという報告もあるが,この数字は低すぎるという批判もある4).迷切+幽門形成術では死亡率はもつと低いが,15%あるいはそれ以上に再出血があるという4). このような理由で上部消化管出血を遅くさせたりストップさせる非外科的な方法が多年にわたつていろいろ試みられてきた.安全で効果的な非観血的止血法はとくにpoor surgical risk患者に必要である.胃冷却法にはじまり,最近では消化管内視鏡および血管造影法の発達によつて,上部消化管の大量出血の診断と治療の両面において可能性を拡大しつつある.
Copyright © 1977, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.