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はじめに
胃・十二指腸潰瘍の発生に関しては,古くから幾多の論議がなされ,種々の学説が提示されている.概念的には,攻撃因子としての酸・ペプシン分泌と,全身的防御因子あるいは局所の防御機構としてのmucous,mucosal barrier,胃炎,血管因子,幽門機能不全などの異常があげられているが,とくに潰瘍好発部位の解剖学的素因を解明したものとして,粘膜境界部と胃筋構造との関連から説いた大井の二重規制学説がある1).すなわち,大部分の消化性潰瘍は,上部ひずみ域としての前・後内側斜走筋束と境界輪状筋東とで構成されている筋面,および胃底腺・幽門腺境界部の粘膜面,の両方に囲まれる範囲と,下部ひずみ域としては幽門輪状筋束と幽門腺・十二指腸腺境界部の接する部位に好発するという筋法則,粘膜法則の二重の規制を重視したものである.これらの潰瘍は,ほとんどの症例が,通常の幽門側胃部分切除術によつて処理可能な位置にあるわけであるが,一方,いわゆる高位潰瘍と呼ばれている噴門近接部あるいは胃体上部に発生するものについては,上記法則の例外的なものであるのか,あるいは境界部高位のものなのか十分な組織学的検討がなされていないのが現状である.すくなくとも現実には,胃潰瘍例の数96にみられるこれら高位潰瘍は,単に位置的な表現として,レ線3分割の口側1/3とか,幽門輪よりの距離が8〜10cm以上といつた漠然とした表現であらわされているにすぎないが,この特殊な位置の潰瘍がどのように特殊であるのかを分析するためには,まず共通の位置的定義から申し合わせを行なつていかないと混乱がおこる.前述のごとく,通常の胃潰瘍は,通常の位置の切除線で足りることを老えれば,この切除腺で間に合わない高位のものを一応高位潰瘍として分析していくことは,組織形態的あるいは成因論的にどのような特徴があるかを分析する上に便利であり,また,そのような特殊性が外科治療上にどのように反映されるべきかといつた点について検討するにも有利である.つまり,一応はこのような定義づけによつてretrospectiveに検討してみなければ,その特殊性も手術術式の適否も判断し難いと思われる.以上のような理由により,われわれは,過去6年問にわたり,教室で定めている通常の幽門側胃部分切除術の切除線(図1)より噴門側に位置する潰瘍を"高位である"と定義し,主として噴門側胃切除術を適用してきたので2-4),それらの症例の分析から得られた,高位潰瘍なるものの特徴について述べ,さらに外科治療上の問題についても触れてみたい.
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