臨床メモ
吐血・下血の治療
長尾 房大
1
1東京慈恵会医科大学大井外科教室
pp.378
発行日 1968年3月20日
Published Date 1968/3/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407204541
- 有料閲覧
- 文献概要
吐血,下血は,突発的な顕性出血であるから,治療方針といつても,まず,診断的なあたりと,救急処置的な対策とが並行して行なわれ,止血,救命を第一義的な目的として治療方針を樹てるのが理想的である.いわゆる,経過観察に名を借りて慢然と時間を費し,全身状態の悪化を招かないように注意しなければならぬ.従つて,治療の第一歩は,輸血に始まるのが原則であり,みだりに昇圧剤などを投与して,血圧の維持をはかつたりするのは誤りである.ショック状態を呈している時は,輸血も急速,かつ,大量に行なわなければならないが,一応,輸血量の目標は最低1000mlとしている.これは,日本人の体格から換算して,ショック症状を呈する程度の失血量は,おおよそ1000ml前後と考えてよいからである.この程度の急速輸血で血圧も回復し,その後も安定しているものは,失われた循環血液量もほぼ補われ,また,その後の出血の継続もなく,自然止血している可能性が大であるから,あらためて,輸血,輸液などを中心として,全身管理を行ないながら,経過を観察すればよい.
出血が止まつているかどうかを判定するためには,胃液検査用のチューブを胃内に挿入して,胃液を吸引してみるとよい.この方法は,簡単なことであるが,意外に実施されていない.胃液中の血液の性状により,出血の新旧の程度も判るし,止血したかどうかの判定にも便利である.
Copyright © 1968, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.