患者と私
患者の身に自分をおいて
中村 徳吉
1
1聖路加国際病院外科
pp.400-401
発行日 1967年3月20日
Published Date 1967/3/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407204263
- 有料閲覧
- 文献概要
私は,外科の仕事をはじめてから54年になる.もう年寄りずらをして経験を語つても,笑われることはないと思う.
私は,患者に接する時,先ずこの患者は何を第一に希望しているかを考えてみる.患者は,無論生命を第一に考える.しかし現在自分を苦しめている苦痛,疼痛から脱れたいという希望は,第一は強いものだ,苦痛の烈しい時は,患者は生死は忘れてしまう位なものだ.早く苦痛を脱れたい気持で一杯になる.医者が重い患者を診断する時は,先ずどうして生命を助けるかを考える.これは,当然なことである.しかし,苦痛ある者にそれを除いてやることも医師の任務であることを忘れてはならぬ.手術その他の治療法で苦痛が増加されるような場合は,止むをえぬことではあろうが鎮痛剤あるいは催眠剤で軽い痛みですむようにする.しかし実際にあたり一生懸命に大きい手術を行なう時,疼痛などは考えておられない.患者にもう少しだから我慢しろといつつ手術を行なうことが,昔はしばしばあつた.
Copyright © 1967, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.