外国雑誌より
抗癌化学療法剤の術中使用への期待と評価
井上 善弘
1
1東京医科歯科大学第1外科乳腺疾患研究班
pp.1114-1115
発行日 1965年8月20日
Published Date 1965/8/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407203720
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近年,抗癌化学療法剤の研究と業績が多く発表されており,これらがまだ十分な成果と満足すべき結果に至るまでには,なお幾多の困難な問題があるにもかかわらず,次第に高い評価と期待とが持たれつつあることも事実である.次に最近の抗癌剤についての見解を述べた二つの文献を紹介する.
その一つは,Jeanne C.Bate-manらが,Surgery,(December1964,Vol.56,No.6,1067〜1077)に記載したものである,すなわち彼らは,癌細胞の静脈血中への侵入はかなり以前より病理学者によつて認められているが,その臨床的意義は最近まで一般の注意をひくに至らなかつた.1950年Grinnellは癌細胞の静脈内侵入と5年生存率との関係を報告し,Engellは手術時に腫瘍を灌流する静脈血中および末梢血中に9.7%の割合で悪性細胞を認め,異型細胞を8.5%に認めた.Sandbergは進展した腺癌患者では末梢血中に38%に悪性細胞が見つかると述べている.創面からの悪性細胞の剥離が時に治療不全を起こすことから,創部の癌細胞を破壊する物質を用いようとする気運が生れたのである.アルキール塩類に属する抗核分裂剤が多方面にわたつて癌の手術に補助的に使われているが,動物実験では腫瘍の転移を減少させるためには,ナイトロジェンマスタードよりもThio TE—PAの方が僅かに良い結果を示すようである.
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