特集 手こずつた症例―私の経験した診断治療上の困難症(Ⅰ)
無石胆嚢炎—とくに手術について
石橋 幸雄
1
1東京大学伝研
pp.515-517
発行日 1962年6月20日
Published Date 1962/6/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407202909
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胆嚢は炎症の発生し易い場所である上に,胆石形成の好素地でもあるために,外科臨床ではしばしば剔除の対象とされていたが,近年は化学療法の長足の進歩によつて,急性胆嚢炎はもとより,慢性胆嚢炎も,感染自体はかなり有効に制禦出来るようになつた.最近,胆嚢の穿孔や壊死性胆嚢炎などの救急手術がとみに減つたのはたしかに化学療法のたまものであろう,かくして,胆嚢炎は排出不可能な胆石でもない限り,内科的に治療すべきであると言う思想がますます一般的となりつつある.しかし,内科的にいろいろやつて見たがどうも疼みがとれない.思い切つて胆嚢を剔つてもらつたらさつぱりしたと言う患者もある.外科医のセンスからすると,再発をくりかえすような胆嚢炎に対しては炎症の場をなくする意味で,胆剔が有意義であると主張することも出来るが,一方手術しても一向に改善されない場合も決して少くないから乱用はつつしまねばならない.
胆剔後におこるいろいろの愁訴に対して胆剔後遺症の名称が与えられているが,内容は複雑多岐にわたつている.ところで,無石胆嚢を剔つた場合の術後愁訴は胆嚢欠如症状と言うふうに説明され勝ちである.それは胆嚢の機能的役割を重視する立場からおこる議論で,胆嚢を虫垂と同断に考えて手術することの誤りが内科医によつてしばしば指摘されて来た.
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