今月の小外科・14
粉癌,皮樣嚢腫等に対する『ラーピス』療法
中谷 隼男
1
Hayao NAKATANI
1
1東京逓信病院外科
1Surgery, Tokyo Teishin-Hospital
pp.239
発行日 1951年5月20日
Published Date 1951/5/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407200820
- 有料閲覧
- 文献概要
アテローム,デルモイドは外科臨床に於て日常屡々みるものである.頭部,顔面のものは美容上殊に面白くない.のみならず一と度炎症を起して腫脹,発赤,疼痛を起せば厄介であり切開を行つて排膿しても一度は急性症状が去るが早晩再発を起すものである.殊に背部の粉瘤は炎症を起し易い.斯る嚢腫が單なる切開や内容の一時的排除で治癒し難いことは周知の如く当然のことであつて,裂嚢が残れる限りそれより分泌が起るためであるから被嚢の除去を行わねば根治は起らぬとされる訳である。然し手術的に摘出を行うに当つては腫瘤の辺縁を越える可成り長い皮切を必要とし粉瘤であれば紡錘状皮切を以て皮膚の一部と共に腫留を摘出することになる.一次的治癒を期待出来る場合は線状の瘢痕であるが顔面殊に妙齢の女子等ではそれさえも余り好ましくない.炎症を起せる場合は摘出手術は常識上出来ない.敢て行えば化膿,哆開,二次的治癒となり瘢痕は目立つ.
ここに述べる「ラーピス」療法は外面に殆ど瘢痕という程のものを残さない小切開で被嚢の自然排除を図つて根治せしめ他方炎症の有無に関らず行い得る利点がある.即ち可及的小切開も加えて其の内容を軽く圧出し,其の腔に「ラーピス」即ち硝酸銀棒ら挫碎小片をおし込むことにより,内面より被嚢の腐蝕,壞死が起り同時に其の外側に細胞浸潤が起つて薄い肉芽層が形成され被嚢との間が弛緩して容易に除去し得るに至る.
Copyright © 1951, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.