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嵌頓脱腸とか腸重積とか狼咽などの手術を,外科側に願つたあとで,乳兒に急死されて家人に困つた気持がするのは,小兒科医がたいてい一つ二つの経驗をもつのであるが,これは小兒科医も前もつて,家族にその危險のあることを諒解させておくべきだと思う. この事故を,ふつうはしばしば,手術が手おくれだつたとか,血液を吸入したとか肺炎が併発(「エーテル肺炎」など)したとかとかく手術の責任であるかのような説明をしておつたが,パリ大学の小兒外科Ombrédanne教授は,ずつと前から特別な体質的な病理によつて起る場合が少くないことを力説されていた. もう10年も前の講義ノート書によつて,先生から伺つた話のままに引用してみよう.
たいていは生後6カ月よりも幼い乳兒の手術の場合である. 麻醉剤を用いようと用いまいと,或はその麻醉剤の何によつても,だいたい大差なく生じることであつて,麻醉障害とは考えられない. 手術のさいちゆら,または手術の直後に,乳兒の顔いうが急に青くなるが,出血とはあまり関係なく起る.この一過性蒼白は,しばらくすると元に戻つて,その日も翌朝も変りないことが多い.手術の日に多少のひきつけが現われることもあるが,すぐ治まる.手術の翌日,発熱が始まり,再び顔面蒼白が現われる.発熱は早生ければ手術後6〜10時間,おそくとも30時間以内である.目や口のまわりに,くまができる.まれに嘔吐がある.発熱は高熱に達し,39.5〜40度以上に昇ることが普通である.このへんで,充分強心,輸血そのほかの手当てをすれば,癒ることがある.
しかし一般には,体温はますます昇つて,41〜42度の異常高温に達し,呼吸促進と弱脈がおこる.排尿も乏しく,脱水状態になる蒼白なままでチアノーゼは来ない.再びひきつけることがある.失神のままで死ぬ.死ぬま.での時間は,手術後12〜16時間くらいが平均で,早い.例では数時間である.注意すべき点は,24時間以後になつて死ぬ例は,まれだという事実である.
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