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本例は都立大久保病院内科部長慶大助教授野並浩藏博士及び都立大久保病院外科部長宮沢政栄博士の好意ある材料の提供に基き私の教室で剖檢したものである. 臨床所見は両博士の資料に仰ぎ全文章の整理の責任は病理を受けもつ私にある. 茲に心から両博士に深甚の感謝を捧ぐる.
膵臟の殆んど全体に亘る瀰蔓性の間質性硬化性炎症一膵硬化症又は膵線維症(膵硬変との概念上の識別問題は後にふれる)は決して左程日常遭遇する対象ではない. 臨床的に可成予想されるものではあつても最後的の決定が容易でなく病理解剖の材料としてその廣汎高度なものは実に稀有であると云えよう. 勿論限局性の膵硬化は附帯現象として少くはないであろうが剖檢の結果その成り立ちの解明に少なからず当惑させられるのは瀰蔓性硬化を前にして普通である. まして膵硬化と膵硬変との概念の識別となると甚だ模糊とした問題がひそんで釈然としない. 吾々が最近経驗したこの領域の1例症は生前の患者の歴史の分析からも多大の興味を呼ぶが外科的手術が予想を具体的に確めた上にさて剖檢してみた所膵の変化が詢に目ざましいだけでなくその成り立ちが直ちに結論を引き出すべく余りにも錯録し,加え膵硬化の一部に癌性変化を認めるといった工合でどの角度から眺めても教えられる所の豊富なものであつた.生前の手術前の症状からはむしろ黄疸の強さや胆嚢炎の所見が他を抜き嚴密な症状の検討が膵炎の合併を想出させるにすぎなかつたので,外科的処置は周到な考慮の下に行なわれ然もそれが甚だ効果を生むことが出來たのは剖檢者の立場に立つてみても有難いととであつた.臨床家の抱いた迷宮は一度開かれたが剖檢者に委ねられるや再び新たな迷宮が扉を閉ぢ,その詮索は現在に於てすら完壁の域に達し得ない.かかる症例に類似の経驗を持たれる世の多くの識者の前に忌憚なき資料と吟味の跡を披歴して願わくば卒直な御批判を戴きたいのが僞わらざる吾々の希望である.以下臨床と病理との要点を摘録し簡單な考按を加えてみたいと思う.
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