ロンドン外科学史瞥見・2
旧セント・トーマス病院手術場とガイ病院
佐藤 裕
1
Hiroshi SATO
1
1誠心会井上病院外科
pp.799-803
発行日 2009年6月20日
Published Date 2009/6/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407102596
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「病院」の起源
冒頭から話が脇道にそれるが,本文の内容に関係しているので,西欧諸国の「病院」について簡単に述べたい.すなわち,西欧社会には古来から異邦人を歓待する慣習があった.この慣習のうえに,異邦人にとどまらず旅人,巡礼者や貧困者などの社会的弱者に休息,飲食,救護を提供する場が設けられるようになり,これが「ホスピス」(今日的な意味合いとは若干異なっている)と呼ばれるようになった.やがて,修道院や教会が巡礼者や病める人々に癒しを提供する施設(救貧院)を建てるようになり,その後,これが今日的な意味での「病院」へと発展していったのである.つまるところ,主として旅人に宿泊を提供するのが「hotel:ホテル」,巡礼者の救護にあたるのが「hospice:ホスピス」,そして都市部で市民や病人を対象にしたのが「hospital:ホスピタル」である.
例として,イギリスではないが,パリ市内のノートルダム寺院の傍らにある「Hôtel-Dieu:オテル・デュー」(「神の家」の意)と呼ばれているパリ市民病院が挙げられる.ここが「神の家」と呼ばれるのは,創設当初から聖職者が貧困者や行き倒れなどの収容・救護にあたっていたからである.このように西欧では教会と病院とは密接に関連していた.言い換えれば,病院が教会内部に設けられて尼僧などの教会関係者が救護・看護に当たっていたのである.病院名に「セント」(聖)が付いているのは,教会や聖職者がその創設や運営にかかわったことを示している.本論に入る前にこのことを念頭に置いていただきたい.
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