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2006年の第61巻第8号のこの欄で「野生復帰への弾み」として,新潟県佐渡市におけるトキ(朱鷺.学名:Nipponia nippon)の人工繁殖を紹介した.また,第2弾として,2008年の第63巻第8号では試験放鳥のための訓練などについて紹介した.したがって,今回はトキに関しての第3回目の紹介となる.
前回は,15羽のトキが自然の山野に野生復帰できるように訓練を受けていると紹介したが,このうちの10羽だけが2008年9月25日に試験的に放鳥された.当日は秋篠宮殿下が第1羽目を,妃殿下が第2羽目を放鳥され,その後,次々に合計で10羽が大空に放たれた.このときの状況はテレビでも放映したので,目にした読者もいると思われる.トキには全地球測位システム(GPS)での位置確認のための電波発信機が6羽に取り付けられており,その個体の位置確認を行っているという.また,個体の識別のため,付着させた塗料の色からそれぞれを識別している.試験放鳥の半月後には10羽のうち8羽が確認されており,この8羽は群れを作らずにバラバラに行動しているという.しかしながら,生存が確認された8羽はいずれも自然のエサをよく摂っているし,必要以上に人を恐れる様子もないという.また,放鳥場所から30kmも離れた小木地区で「2歳オス」のトキ1羽が確認されている.放鳥後1か月が経過した現在も,生存が確認されているトキは8羽である.しかしながら,残りの2羽が死亡したという証拠も今のところ見つかっていない.この2羽はケージ内ではペアを形成していた「3歳メス」と「2歳オス」とのことで,自然環境でもケージ内と同様にペアを組んで生活し,来年の春には自然環境のなかで雛を育てて欲しいものである.これから冬場の季節を迎えるため,エサ場が限定されてくると行動範囲も限定され,群れを形成する可能性もあることが指摘されている.この雑誌が発刊される頃には,群れを形成して元気に生きているトキをみたいものである.
トキが放鳥される少し前の2008年の8月6日には,佐渡において野生のコウノトリが確認されている.このコウノトリもわが国では一度は絶滅したもので,中国から譲り受けて人工繁殖させ,1992年に兵庫県で野生復帰計画を開始し,その結果,佐渡にも飛来したものである.このコウノトリはコウノトリ目コウノトリ科に属し,トキはコウノトリ目トキ科に属している.同じコウノトリ目の仲間としてトキの野生復帰をお祝いするための来島であったのだろうか.
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