文学漫歩(最終回)
―トールワルド(著),大野和基(訳)―『外科の夜明け』―(1995年,小学館 刊)
山中 英治
1
Yamanaka Hideharu
1
1市立岸和田市民病院外科
pp.1643
発行日 2003年12月20日
Published Date 2003/12/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407101631
- 有料閲覧
- 文献概要
忘年会シーズンは夜間救急外来に酔っ払いが増える.気持ちが大きくなり判断能力などが低下するため,喧嘩や転倒などによる外傷が多い.共通点は当然酒臭いこと,「大丈夫,酔ってない」と繰り返すこと,傷を縫合する際にあまり痛がらないが,よくしゃべって,じっとしていないことなどである.最近は若い女性の泥酔も増えた.女性に幻想を抱く私は,煙草をふかす妊婦とともに最も見たくない姿である.かく言う私も泥酔して余計なことをしゃべったり,目覚めると手足に皮下出血があったり,どうやって帰ったか覚えていないことなどは日常茶飯事であるので,当直でも酔っ払いには比較的寛容である.
『外科の夜明け』によると麻酔が開発されるまで,欧米ではブランデーを大量に飲ませるのが一般的であったそうだ.確かに泥酔すれば皮膚縫合程度なら無麻酔でできるが,手術となると暴れて気絶するであろう.本書では麻酔のない時代の拷問のような手術の様子がリアルに描かれている.麻酔の発見により,内科に比べて野蛮(今でも内科医はそう思っているような気がするが)とされていた外科医の地位も向上した.稀代の名外科医で冷徹なワレン教授が,麻酔の成功に涙を流して手術を遂行するシーンは感動的である.
Copyright © 2003, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.