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日本三大急流の1つである球磨川の流域に広がる人吉市は,かつては相良藩700年の歴史を持つ城下町でしたが,現在は人吉温泉や球磨焼酎,川下りで知られる観光の町です.この町が西南の役の激戦地であったことはあまり知られていません.田原坂の戦いに敗れた西郷隆盛は九州山地を縦走してやっとの思いで人吉にたどり着き,傷病兵の手当てのためしばらくこの地に留まりました.そして人吉城に籠城し,迫り来る官軍との間で球磨川を挟んで大砲の撃ち合いとなり,市街を戦禍に巻き込み多くの犠牲が出たということです.その時,当院のルーツである私立人吉病院(文久3年開業)は焼失しました.戦後復旧にあたって新たな病院建設の気運が高まり,住民の寄付により明治11年に設立された公立人吉病院が当院の前身にあたります.初代病院長は江戸,佐倉(千葉県)で西洋医学を修めた西道庵先生で,外科を中心に診療していたようです.その後も住民の支持・協力によって病院の拡充を行い,太平洋戦争終結まで公立病院として運営されました.昭和22年,政府の医療政策に従い,当院は国に移譲され社会保険病院として現在に至っています.明治11年の設立から127年の間,一度も移転することなく球磨川を見渡す西郷の宿営舎前で,設立の経緯通り住民に愛され信頼される地域の中核医療機関として発展してきました.
現在,ベッド数274床・17診療科で,急性期特定入院加算,地域医療支援病院,管理型臨床研修指定病院,災害拠点病院など過疎化の進む僻地で急性期医療を中心に医療提供を行っています.外科は熊本大学から医師の派遣を受け,現在は昨年から病院長となった筆者のほかスタッフ5人,研修医1人で心臓外科以外の外科診療とIVR,内視鏡検査,救急医療などを受け持っています.また,外科学会,消化器外科学会,乳癌学会,胸部外科学会など主要学会の認定・関連施設となっています.平成16年の外科手術症例は食道癌6例,胃癌51例,大腸癌44例,肺癌16例,乳癌35例,肝切除11例,膵十二指腸切除5例,手術総数463例(全麻408例)で,平成3年から開始した腹(胸)腔鏡下手術も,胆摘はもとより肺,食道,胃,大腸,虫垂,ヘルニア(鼠径,腹壁瘢痕),乳腺と積極的に取り組んでいます.
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