連載 症候学メモ余滴・5
「ところで,あたなの師はどなたですか」
平山 惠造
1
1千葉大学
pp.448
発行日 1996年5月1日
Published Date 1996/5/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406900947
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文筆家の亀井勝一郎氏が生前このようなことを述べている。昔ある宗教家を訪ねたとき,蘊蓄(うんちく)を傾けて宗教について滔々(とうとう)と語った。彼は宗教について相当に勉強していたらしい。宗教についてはこういうことまで知っていると披露した。そしてその家を辞すとき,玄関で靴をはいていると背中からその宗教家が「ところで君はどういう師についてきましたか。それはどなたですか」といわれた。頭から水をかけられたようで,血の気が引いていく思いであったと述懐している。本物の師について学ばなくては,物事の神髄に迫るのは難かしい。単に書物や見聞によって知識を増やしてもその本質を会得したとはいえない。それには然るべき師の教えを受けなくてはならない,といったようなことであったと思う。
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