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近年各種神経疾患に対する実験的神経移植の研究が精力的に行われている。特にParkinson病はその主病変が中脳ドーパミン細胞の欠落であることから,本病モデル動物に対し胎児中脳腹側ドーパミン細胞の線条体内移植が実験的に行われ,移植細胞の生着・機能の回復・宿主脳細胞とのシナプスの形成等が証明された6,7,9,24,25,48)。Parkinson病のほかにもAlzheimer病17,20,33)・脊髄損傷54)・網膜症12)・脱髄疾患モデル動物37)等に対しても神経移植が試みられつつある。これら数多くの動物実験の成果を踏まえ,ヒトParkinson病に対し神経移植が臨床応用されるに至った。まず臨床応用されたドナー組織は自己副腎髄質細胞で,その脳内移植は当初ほとんど効果がないとされたが3),その後著効例が一部の報告者から発表された42)。しかし移植症例数が増加するにつれ副腎髄質移植の効果は一過性または軽微であることが明らかになり,ドナー組織は副腎からヒト胎児脳へと移りつつある。神経移植による機能回復の機序として,1)宿主脳の残存ドーパミン線維の発芽(sprouting),2)移植細胞からのドーパミンの放出,3)移植細胞と宿主細胞とのシナプス形成,4)移植細胞を組み込んだ神経回路網の再構成,等が考えられる。現在臨床例での機能回復の機序としては宿主神経線維のsprouting,ドーパミンの放出,シナプス形成等の可能性は考えられるが,神経回路網の再構成の可能性は少ない。
我々が『失われた脳機能の回復』という観点から神経移植を各種神経疾患の治療法として確立させるためには,移植細胞が宿主神経回路網に組み込まれ新しい回路網が再構成される必要がある。多くのParkinson病移植の実験ではドナー組織の移植部位として本来の中脳黒質ではなく,そのtarget areaである線条体が選ばれている。これは移植細胞から軸索の伸長が極めて短い距離に限られているため本来の黒質線条体ドーパミン路を形成するには至らないからである。我々のgoalは移植細胞と宿主細胞間に本来のinput-outputを伴う神経回路網を再構築させ,なおかつその回路網が機能して失われた脳機能を回復させることである。そのためには移植細胞から軸索を目的とするtargetに誘導する必要がある。
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