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I.はじめに
パーキンソン病は50-60歳台で発症し,無動,筋固縮,振戦,歩行障害を主症状とする.その主病変は中脳黒質にあり,中脳黒質内ドーパミン細胞が選択的に死滅し,その結果として黒質線条体ドーパミン路が破壊されることにある.治療としては,ドーパミンの前駆物質である1—dopaが用いられ劇的な効果を示すことはよく知られている.しかしながら近年,1—dopaの長期投与症例が増加するにつれ,1—dopaは症状の改善をもたらすものの,病気を本質的に治療するものではないことが明らかにされてきた.さらに1—dopa長期投与に伴う副作用(効果の減退,on-off現象,ジスキネジア)も大きな問題となってきた.そこで1—dopaに代わる治療として神経組織の脳内移植が行われるようになった.神経組織の脳内移植のドナー組織としては胎児中脳黒質5,6,10,17,34),自家副腎髄質2,4,9,33,35,38)および自家頸部交感神経節19-24,37)が用いられ,実験的および臨床的にその効果が検討されてきた.なるほど,パーキンソン病で失われた中脳黒質ドーミン細胞を胎児中脳ドーパミン細胞で補うことは最も理にかなっている.しかしながら,胎児脳を使用する倫理的問題や,拒絶反応の問題から,いつでもどこでも胎児中脳が脳内移植に用いることが出来るとはいえない.この倫理的問題を解決するため,自家副腎髄質の脳内移植が行われてきたが,その効果には大いに疑問がある13,14,32,40).しかも移植された副腎髄質細胞が,脳内では長期間生存しないことが明らかとなり16,18,41),パーキンソン病に対する副腎髄質脳内移植は,ほぼ否定されるに至った.われわれは胎児中脳黒質に代わるものとして自家頸部交感神経節の脳内移植を考案した.われわれがこの頸部交感神経節をパーキンソン病脳内移植に用いるのは,この神経節内にはノルエピネフリン細胞の他にドーパミン細胞が存在するからである7,8,12,36).本総説においては,われわれが行ってきた頸部交感神経節脳内移植の基礎的研究およびその臨床応用の結果について述べる.
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