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閉塞性頸動脈疾患は,本邦での発生率が欧米に比して低いことから,脳血管障害の内でも取り組みが遅れている分野である。その自然経過,発生頻度,発生部位などについて,日本人は欧米人とは多少とも異なる民族的特徴を有するはずであるが,これらの実態の把握も十分にはなされていない。しかし,閉塞性頸動脈疾患が将来,欧米なみの発生率に近づいていくであろうことは,十分に予測される。
本疾患(群)による虚血性脳障害は,TIAs, RIND, progressingstroke, completed strokeなどに分けられるが,それぞれの脳病態には多くの相違点が見いだされており,治療方法も当然異なる。またその病因は,動脈硬化,糖尿病,心疾患など全身的疾患と極めて密接な関連を有していることから,治療の目的をどのように設定し,治療効果の判定をどのように行なうかについては,慎重な取り組みが必要である。いずれにしても,本疾患に対してはPET, MRIを初めとする最新の検査法を駆使して,極めて多角的なアプローチがなされており,現在までに集積された知識の全体を把握することは容易なことではない。本書では,閉塞性頸動脈疾患の多岐にわたる側面の一つ一つについて,第一線の研究者が執筆しており,記述は概ね簡潔,且つ的確である。文献も代表的なものに留めてあり,この複雑な疾患の全体像を理解する上で,推奨し得る入門書である。しかし,未だ結論が得られていない諸問題,特に保存的,手術的治療の選択に係わる問題については,本書からは明確な方向性を読み取ることが出来ない。また,脳虚血急性期の治療については,実験データについての記述が多い割りに,実際の治療にすぐ役立つような指針は示されていない。これは,血糖レベル,呼気CO2, Hctなどのコントロールというような代表的な保存的治療についてさえも,従来の常識の再点検が行なわれつつある現状を反映しており,本書が敢て企図しなかったところであろう。
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