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著者Michael R.Bond教授はグラスゴー大学でpsychological me—dicineを担当している痛みの研究に造詣の深い著名な学者であり,国際疼痛研究学会(IASP)の理事として国際的にも活躍されている方である。本書,「痛みの理解と治療」は,痛みについての現時点での最先端の知見を,Bond教授の専門領域である心理的側面のみならず,身体面をはじめとする痛みのすべての点についても,バランスよく実地に則して記述したすぐれた解説書である。
痛みに苦悩している患者の数は非常に多く,その治療に困難がある場合が少なくないことは,本書を翻訳された大村昭人先生が訳者序で述べられている通りであるが,一方では,痛みについての理解とその治療法の知識が広くいきわたっていないことも事実である。私の小さな経験においても,身体上の難問が山積する中で,最大の自覚症状が痛みとなっているのに,長い間,除痛が得られないため,大きな恐怖心と不安をもち,その苦境を理解してくれる人が求められない,と諦めている患者に遭遇することが少なくなかった。さらに,「客観的にとらえにくい痛みの研究を始めると泥沼にはいるよ」とか,「中毒患者を作るだけだから麻薬を使うな」など,私が若いときに耳にした不用意な言葉を先輩達から投げかけられている医師が今でもいると聞く。しかし,今日では痛みの研究は基礎,臨床両面から着実に進んでおり,とくにこの20年間の進歩はめざましいのである。にもかかわらず,その成果が日常臨床に反映されていないことが多い理由として,研究の場から臨床の場への情報伝達がうまく作動していないこと,医学教育の中で痛みのとりあげ方が不足していること,したがって一般医師の関心が大きく育たないこと,などがあげられよう。私が求めたテキストの中にも,専門的すぎるため読者が限られてしまったり,痛みの身体的側面あるいは治療の技術面にかたよりすぎていたり,古典的すぎるものなどが少なくなかった。
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