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冷血動物の中枢神経系で著明な軸索の再生が起こることはよく知られているが18),哺乳動物の中枢神経系では軸索は再生しないか,再生したとしても極めて微々たるものであるというのが通説である7,16,17,40)。哺乳動物でも脳損傷後,損傷部の近傍に再生の初期徴候である成長円錐,すなわち伸びつつある線維の先端が出現することは古くから知られていた6)。そのような伸びはじめた線維は標的に到達することができず,2〜3週間経つうちに変性退縮してしまう(abortive regeneration)というのがRamón y Cajal以来多くの人達によって観察されてきたことであり,通説の根拠となっている。しかし,切断された軸索は必ずしもabortive regenerationに陥るわけではなく,場合によっては著明な再生を示すことが,最近数多く明らかにされてきた1,4,5,19,20,26)。有髄線維も再生するが,とりわけ無髄線維の再生は著しいといわれる5)。
軸索の再生というのは,自明なことであるが,切断された神経線維が再生することであって,切断を免れた線維の側枝発芽(collateral sprouting)ではない。しかし,脳のいろいろな部位で損傷された線維の近傍の健常な線維から側枝発芽の起こることはよく知られている38)。しかも線維束の切断を行なう際,鋭利なナイフを用いても,場合によっては1mm以上も変位して切断を免れる線維があり,こうした線維の周辺には成長円錐を認めるので,変位した線維そのものを,あるいは側枝発芽によって生じた線維を再生線維と見間違える可能性がある。また,実験材料として未成熟な脳,とりわけ胎児の脳を用いる場合には脳損傷時に損傷部まで伸びていなかった軸索が,遅れて伸びてくる可能性がある。これは軸索の新生(generation)あるいは発達生長(develop-mental growth)と呼ぶべきものであって再生(regene-ration)ではない。したがって,対象にしている線維が切断時の変位によるものでなく新たに生じたものであり,それが側枝発芽や発達生長によるものでないことが証明されてはじめて軸索が再生したと言いうる。しかし,このことを証明するのは実際にはなかなか難しく,軸索の再生を報告した論文のほとんどが厳密な意味ではこの証明を欠いている。また,その多くは再生した線維の起源をなす細胞,線維の走行経路,終止部位の同定や機能的結合の検証を行なっていない。
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