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はじめに
1930年から1960年代にかけてフライ(Maximilian von Frey)の痛点に相当する構造が組織学的に検索されたが見つからず,その結果,痛みを特殊な侵害受容器なしに説明する種々の考えが提唱された。その1つである関門制御説が1965年にMelzackとWall1)によって発表された直後,1967年にBurgessとPerl2)によって強い機械的刺激(侵害性)のみに応答する線維(Aδ線維)の存在が初めてネコで発見された。家兎,サルでも侵害受容Aδ線維の存在が確認され,ヒトでは,Adriaensenら3)が1980年に初めて報告した。その後LightとPerl4)がこのような線維が特異的な経路で脊髄に投射することを確認し,侵害受容器の構造が1981年にKrugerら5)によって見出された。さらにAδ線維に加えて侵害刺激による信号を伝えるC線維も見出され(1969年BessouとPerl6),1977年KumazawaとMizumura7),1978年KumazawaとPerl8)),ヒトでは1972年にVan Heeら9)が,1974年にTorebjörkとHallin10)がマイクロニューログラフィ(microneurography;微小神経電図法)を用いてその記録に成功した。
このように1960年代後半から1970年代前半にかけて痛みの特殊説を裏づける知見が相次いで発見され,現在では侵害受容に特異的な分子レベルの機序が議論の対象になるという段階にまできている11)。にもかかわらず,特殊説で痛みという体験を十分に説明できる大脳に至る伝導路は今日まで明らかにされておらず,侵害受容に特化した経路を主張する立場と,さまざまな体性感覚入力の量的バランスで痛みを説明する立場(パターン説など)が現在でも存在する12-14)。侵害刺激の意識的な認知とそれに伴う不快な内的体験を直接担当する脳内部位やその発現機序は明らかにされていないし,そもそも感覚刺激の認知やそれに伴う情動変化のしくみはどの感覚系についてもわかっていない。
痛み関連の研究が他の感覚系に比べて遅れている理由の1つは,痛みという体験の特殊性による研究の制限である。動物を用いた研究では外部から動物の内的体験を類推することには限界があるし,ヒトでの研究では実験的に痛みの情動側面を吟味することには大きな倫理的制限がある。しかしながら,痛み受容に重要な役割を果たす処理経路や細胞群に関する知見はこのような制限にもかかわらず積み重ねられており,本稿では侵害刺激により惹き起こされる痛み(侵害受容性疼痛)に関わる侵害性信号の受容(nociception)から不快な情動発現までをまとめて痛みの伝導路として考察する。
Abstract
In 1967, Burgess and Perl discovered nerve fibers that specifically respond to noxious stimuli; since then, anatomical and physiological studies in animals, as well as humans, conducted using microneurography and non-invasive imaging techniques, have shown that there are nociceptive neurons in the dorsal root ganglion, spinal cord, thalamus, and cerebral cortex. Further, there are 2 main nociceptive pathways; one comprising nociceptive specific neurons in lamina I and another comprising wide dynamic range neurons in lamina V in the dorsal horn of the spinal cord. However, the roles of the 2 pathways in pain perception are still largely unknown. In this brief review, I intended to consider whether and how putative structures in the nociceptive pathway contribute to pain perception.
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