- 有料閲覧
- 文献概要
本書の「まえがき」をみると,大脳皮質の構造と機能について大がかりな叢書が企画され,本書はその第一巻という。編集顧問にはJ.C.Eccles,E,V.Evarts,N.Gesch—wind,V.B.Mountcastle,W.J.H.Nauta,S,L.Palay,F.Plumなどの名前がみられるところから広い研究分野を含んだ計画であることがうかがえる。全体としての巻数や各巻の題名などの具体的なことはふれてないが,続巻としては大脳皮質の各領野の機能とその線維結合を予定しているという。木巻は標題でおわかりのように大脳皮質の構成ニューロンの形態をGolgi法,HRP法,覧顕の所見を中心に取扱っている。各箪の執筆者は現在その研究領域で活動を続けている研究者ばかりで,研究領域にオーバーラップする部分もあり,また所見に対する見解が必ずしも一致しない場合もあるが,編集者がその間を調節することは敢えてしなかったとことわっている。大脳皮質形態研究の生の現場情報が提供されているということなのであろう。図版も鮮明で,とりわけGolgi標本からのニューロンのスケッチはどれも素晴らしい。
本巻は16章からなりその章構成は別表の通りである。第1章を大脳皮質の形態研究史にあて,残り15章を2部に分けて第I部は第2,3章で大脳皮質の細胞構築をとりあげ,第4〜16章の第II部で構成ニューロンの形態を取扱う。第4章で構成ニューロンを錐体細胞と非錐体細胞に大別し,第5章が錐体細胞,第6〜15章が非錐体細胞をとりあげ,終章の策16章は皮質遠心ニューロンの立場から再び錐体細胞が論じられている。各章のはじめのintro—ductionあるいはbackgroundという項目で各研究領域の歴史的経過が触れられているので,この部分に目を通すだけでも大脳皮質細胞の形態について相当豊富な情報をうることができよう。第14章で第1層のニューロンについて執筆しているM.Marin-PadillaはGolgi法による大脳皮質の個体発生の論文を1970年頃から発表しはじめ1978年に新皮質発生二重説を提唱した研究者としてご記憶の方もあろう。新皮質の個体発生については1961年以来の3H—チミジン・オートラジオグラフィの所見によって深層の皮質ニューロンほど発生が早く表層ほど遅いという見解が定着しており,大脳皮質第1層は比較解剖学的にも皮質構成層のうちで最も古く,個体発生的にも第1層ニューロンは非常に早いとする二重説は今日ではまだ少数派に属するであろう。この章一つとっても本叢書の企画の斬新さが感じられる。
Copyright © 1985, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.