Japanese
English
- 有料閲覧
- Abstract 文献概要
- 1ページ目 Look Inside
1.雑種の生物学的意義
古来関心がもたれてきたのであるが,知能的行動が両親から雑種第1代にどのような様相で遺伝されるかヒトの行動上当然考えられることである。それに伴って,さらに知的行動と関連してその基盤になっている脳の構造が問題になってくる。ヒトの脳の発達度は他の動物と比較して,殊に生後において大きい。脳の成熟はヒトの場合では遺伝子支配の外に,学習が関与する文化的,社会的要因に依存している。しかし一般的には脳形成の基本的プログラムは遺伝的支配を受け,選択的育種で脳が変えられることはよく知られている。Charles Darwin4)は1868年に彼自身の観察の外に,当時における多方面の研究者から資料を収集し,それをまとめて「The Variation of Animals and Plants under Domestication」を出版した(第1図,第2版1905年発行)。その中で育成された動物ならびに植物の変異について詳細に記述した。彼が特別に注意を払って研究したハトに関しては次のように述べている。カワラバトColumba liviaから家禽化された結果,多くのハトの品種が確立された。その後,各品種間に交雑が行われて,一層形質の変異を助長してさらに新しい品種がつくられた。またニワトリ品種の脳の外形と習性についての項で,彼が飼育している品種のポーランドニワトリの雌は孤立的な習性をもっていて,夢想にふけって手で触れることができる程であった。このニワトリは路を知る能力が欠けていて,道に迷うという位に愚鈍にみえた。しかも脳の外形がこの品種と同じ大きさの頭蓋をもつコーチンの脳と比較すると著明に変化していた。これらの脳外形の著しい変異がポーランドニワトリの知的能力に影響を与えるかどうかとの問が発せられるのも当然のことであると述べている(阿部余四男訳の一部参考)。以上のようにDarwinは品種間に人工交雑が行われ,人為的になんらかの選択が行われると,さらに新しい品種ができるということ,すなわち交雑育種についての種々の実例を述べると同時に,各品種間には習性の変異があり,それに伴って脳の外形にも変異が起っていることを示唆した。そこで雑種が両親と比較してどのような脳形態を表現し,他方習性がどんな様相を示すか,極めて興味深いことである。
Copyright © 1976, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.