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本書の「神経の変性と再生」という表題をみると,神経疾患の根底に横たわる重要な問題ではあるが,まだ臨床とはそう簡単に結びつくような事柄とは思われないので,主に臨床的立場からの書評をといわれても,懸念の方が先立つた。明確に基礎篇と臨床応用篇とに分かれているわけではないが,およそ前三分の一が基礎的なもので,後三分の二の中にも,それに近い性格の章が散見される。このいわば基礎篇は中枢神経系の細胞発生から始まつて,膜やシナプスの問題から,生化学,組織化学,形態学,病的形態学という諸問題が配列されており,これは「変性と再生」というテーマを離れても,現在のいわゆる神経科学の基礎を手ぎわよくまとめているという点で,臨床にたずさわるものがこの面の知識をしる上で大いに役立つと思われる。
後約三分の二は諸疾患(代謝性,中毒性,感染性,変性々疾患から老化,脳血管障害)とこれにいくつかの実験的応用が述べられているが,臨床とは離れた1,2のテーマを別とすれば,実際には神経の「変性と再生」という問題からは未だかなりの距離での記述のように思われる。神経移植や脳血管障害での副血行路は機能上での再生は得られるものの,神経組織そのものの再生とは相当にかけ離れており,それ以外の諸疾患では更にその距離は大きい。従つて,神経の変性と再生という面からこれら諸疾患についての知識を得ようとすれば,やや期待はずれの感がないでもない。これはいいかえれば,今は,諸神経疾患において変性と再生を論ずる程度までには科学が前進しているとはいえず,今後に残された課題の大きさを物語つているように思われる。それはともあれ,各章,各疾患についてみるならばよくまとめられており,読後の収獲が少なくない。
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