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身體醫學と精神醫學をつなぐもの
平明かつ詳細なこの人間記録の全巻をつらぬくものは,マインドとブレインの同一視に對する反駁である。そればまず,患者のパースナリテイを生物的心理的社會的な全體として把握しようとする,「統一的全體説」の形で提出されている。彼の擧げる7種のパースナリテイの中で,臨床醫家にとつて特に關心をもたれるものは,第一の「肉眼的類型The somertic type」であろう。そこでは内分泌障害,腦腫瘍,腦膜炎,更に進行麻痺の際の精神障碍も個々の患者のパースナリテイの特徴と關連ずけて把握する事が強調される。しかし心身相關醫學のテーマである喘息性,胃潰瘍性,リウマチ性,高血壓性,反復外科手術性,心臓病性などのパースナリテイの諸型や,「疾病への無意識の願望」の賞證は,多くの困難な問題を含んでいる。また,遺傳について,「構造」の遺傳が必ずしも常に「行動」の遺傳を規定しないとする基本的立場は正しいが,この點も將來の實證をまたなければならない。一般臨床醫家にとつて最も有用な部分は,治療と應用に關する最後の章である。ことに精神醫學に關心の乏しい一般醫家の,通常用いている精神療法(所謂ムンテラ)は著者のいう制壓型療法,例えば氣休め,休養,暗示,激勵,説得,解説などが,その殆んどすべてをて占め,近代的精神療法である表明型精神療法は,少くとも意識的には殆んど用いらていない。就中,この際の感情轉移と抵抗の現象の理解は,各科臨床醫家の治療に有意義な結果を齎すことを信じて疑わない。(尚,著者の電撃療法への懷疑や,精神外科への反對は古典精神分析學派として當然である),
最後に「醫術への應用」の章で,アメリカ精神醫學が醫學界の下ずみから花形になる迄の過程についてのべているが,疾病の心理的因子が物理化學的因子と相並んだ位置を占めているアメリカの現況は,日本のそれと遙かかけ離れている。
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