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神経学はその中に含まれる疾患の豊富さと,神経障害による症候の多彩さの点で,他の領域にくらべ著しい特徴がある。また神経系のもつ解剖生理的特色からその機能的,器質的障害と症候の対応性という点で,診断の進め方に極めて論理性があり,興味と関心をそそるものである。神経学は最近の進歩によりその内容が益々幅広くなり,この方面についての関心は急速に高まりつつある。このような情状の下で,冲中重雄先生監修による神経学全6巻が企画され,今回そのうちの第1巻が配本される運びになつたことは,わが国における神経系の発展にとつても最も喜ばしいことである。ことに神経内科が診療科として誕生した今日では,神経疾患に関心を寄せている臨床家にとつては,本書は座右の書として欠かせない貴重な存在であろう。
今回出版された神経学第1巻では総論〔I〕として,神経疾患の概説,局在診断のための解剖生理,神経症状および徴候の診断,神経疾患診断,その他の検査が含まれている。第2巻・総論IIで集録されることになつている特殊検査,神経疾患と代謝,神経疾患の疫学などの項目と合せて,神経学での総論が完結することになつているが,神経疾患を臨床的に取り扱うため最も重要とされるベッドサイドでのテストや患者の訴えをどのように理解するかのポイントは,本書にすべて記述されており,この意味において本書は全6巻の中でも基本的なものといえよう。冲中重雄先生が書いておられる神経疾患の概説の項では,日本における神経学発展の経過,神経疾患研究の方法,臨床神経学と他の分野との関連,神経系の教育の仕方などいずれも極めて示唆に富む内容が盛り込まれており,本書の最も大きな特色の一つで,必読に値する。局所診断のための解剖生理は基礎事項として重要であるが,図表を豊富にとり入れ,臨床事項との関連をわかりやすく解説している点,他に類例をみないユニークさがある。神経疾患診断総論で述べられている診断への手がかり,最近の診断上の進歩,疾患解明の展開などは神経学への興味をそそる部分である。本書では,ただ単に神経学についての知識を与えるというだけでなく,読者に神経学への親しみと,情熱をわきたたせるという点に細かい注意が払われており,生きた指導書という感が深い。全体として各項目で記述に粗密のあることや,章のわけ方(ことに第3章,第4章の内容)など若干の気になる点はあるとしても,これまでのものとは異つた多くの特色をもつており,神経学に関心をもつものにとつては大へん有益な書物で,是非一読されることをおすすめする。
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