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本書の目標とするところは頭蓋外血管の狭窄や閉塞が脳神経症状の発現にどれだけ病的意味を有するか,どのような予後,治療成績をもたらすかを明らかにすることである。先ずanalogueとして第1章には1945〜1965年の間に頸部頸動脈結紮術を行なつた脳動脈瘤,頸動脈—海綿静脈洞瘻などの51例に対する平均9年間のfollowupが述べられており,これによると一側性の頸動脈結紮は術前のcross flowが十分に証明されている場合は無症状であるが,cross flowが不十分の場合は結紮直後から麻瘰が発現しているという。前者は自然発生的頸動脈閉塞で神経症状が発現しない例と類似であり,後者は神経症状が発現した例に対比できるとしており,また5〜10年後にはじめて出現した麻痺に対しては,紮結自体は,直接関係はないとしている。従つて頭蓋外血管の障害に加わるところの何らかの条件を分析すべく,第2章として300例の無選択剖検例を次に呈示している。内わけは3群に大別して,頸胸部血管の狭窄または閉塞を有し,神経症状を呈した群,同上にて神経症状を呈さなかつた群,頸胸部血管に狭窄所見のなかつた群で,神経症状の発現は,頭蓋内血管の狭窄または閉塞が主であり,頸部血管の所見は症状発現と平行しないとしている。剖検例の分析において,頭蓋内血管の狭窄がどのようにして起きたか,また,その過程に対し頭蓋外血管の所見がどのような影響を及ぼしたかは触れられておらず,むしろ身体的背景として,高血圧群,糖尿病群において,頭蓋底動脈輪の循環不全が生じ易いとしている。
また,第3章では,臨床例として,神経症状を有する160例の血管撮影像を分析してその相関関係を論じているが,その結論は,神経症状は病変部の血管断面積の程度には関係しないこと,頸部血管の狭窄であると頭蓋内動脈狭窄に際し,神経症状発現が著明になる。予後を決定する因子は頭蓋内動脈硬化の部位と程度が一義的であることなどであるとしている。したがつて,頭蓋外の血管病変に由来するmicroembolismやTIAの意義に関してはその因果関係を裏づける積極的なdataは述べられていないわけであるし,また,頸部病変部位と脳栓塞の病巣側,健側の対比分析も行なわれていない。このように本書は純粋に臨床的な立場から,病理解剖と血管撮影所見に基づいてのみ分析,記述されており,その背景や因果関係についての推測は控え目である。
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