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編集後記
臺 弘
pp.398
発行日 1974年3月1日
Published Date 1974/3/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406203527
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- 文献概要
「脳と神経」が発刊されてから4半世紀が過ぎた。この間に我国の脳研究は大幅に伸び,多くの大学に脳研究施設がつくられたばかりでなく,神経内科,脳神経外科の臨床部門も大学病院や総合病院に数多く設置され,多数の研究者や臨床家が活躍するようになつた。それにはなくなつた本川,時実両先生を始め,各領域の先達の長い努力がこめられており,また日本学術会議の脳研究連絡協議会の精力的な活動の果した役割も大きかつた。
しかしこの月日は同時にある意味で深刻な反省をもたらすことにもなつた。創業と目先の課題を仕遂げるのに追われて,根深く広い科学研究を育てるのに欠けることはなかつたか,脳を調べるのに心を奪われて人間を守ることを忘れることはなかつたか。社会にも技術万能主義に対する反省が拡がり,人間性の冒?を叫ぶ声が大きくなつた時,とりわけて脳の研究に告発が渦巻いたのは何故であつたか。そこには事実に基づかない感情的議論が横行し,反科学主義と脳聖域論が奇妙に肩を並べている実態があるが,その一番の奥の底には,多くの悲惨な患者達がなお救われずにいるという事実があることを忘れてはならないだろう。
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