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ある奥さんと話し合つていた時に,婦人雑誌というものはよくまあ話の種がつきないものですねといったら,彼女は笑いながら,お医者さんの医学雑誌も随分沢山あるんじやございませんかと切り返えされた。正直のところ,私は女性の直観に常々高い敬意を払つている者の一人である。この時も,多くの医学雑誌が漠大な情報を私達に提供してくれている現在,それらが何のために書かれそして読まれているかを,卒然として反省せざるを得なかつた。本誌に限つて見ても,それが脳と神経の領域の医学と医療の進歩に単純に役立つていると思い込んではいるものの,永遠のリフレインをくり返しているような婦人雑誌と似ている所がないわけでもない。
本誌には,新しい症例や新しい知識についての情報,新しい技術の報告,新しい見方,考え方への示唆などが多く寄せられている。しかしまた,投稿者にとっては報告に値すると思われても,実は既にわかつていることについての学習ノートのような症例報告や技術の考案なども結構寄せられてくるのである。脳と神経の研究者,臨床家の幅が狭く年代の厚みも浅かつた当時は,情報はわりに簡単にすべてに行きわたつたが,関係者がひろがり,深くなつてくると情報の偏在ということが起こるし,またある年代に常識化されていた知識も10年20年たった年代には忘れられてしまつて,また新しく学びなおさなければならないことも起こつてくる。だから学習ノートを雑誌がとり上げるのはそれなりの意味をもち,あわせて基礎的教養レベルの維持に役立つことにはなる。ただし,医学専門誌は婦人雑誌とは違うのだから,同じことを何年かおきにくり返えして雑誌にのせるようになつては—原点に立ち返って反省するというのとは異なり—停滞再生産のそしりをまぬがれないであろう。
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