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本書はSmythies博士の"BrainMechanism and Behavior"の訳である。原著を購入していたが不勉強のため詳しく読まずに過していたところ,諏訪教授監訳になる本書が出版され,短時日のあいだに全体に目を通すことができた。やはり日本語で読めるのは便利である。Smythies博士の名前はOsmondとともに1950年のはじめに生物学的精神医学に関心を持つ人々の間で注目された。すなわち彼等は幻覚剤であるサボテンのアルカロイド・メスカリンと脳のホルモンノルアドレナリンとの間に化学構造類似性があることから,ノルアドレナリンがメスカリン様に代謝されて精神分裂病になるのではないかと考えた。つまり"アドレナリン仮説"が提唱されたのである。その後カナダのSaskatchewan病院でOsmondとHofferの"アドレノクローム仮説"があらわれ,さらにKetyの"メチル化仮説"へと発展してきたのである。このような精神分裂病の生化学的研究者としての印象があまりにも強かったので,本書の内容についてもその方面の記載がもつと多いことを期待していた。しかしこの書を読んで感じたのは,Smythies博士がかねてから広い展望のもとに深い思索をつづけておられることが,研究の上でも第一線の活躍を可能にしたのであるということである。この本の初版では,"The Neurological Foundations ofPsychiatry"と題されているようにこの本の内容は情動記憶,思考,条件反射,動機づけ,行動の脳機構についてひろく解説されている。しかしながら本書は単なる最近の研究の紹介ではなく,著者自身の思想を中心にしてまとめあげられた総説とみることもできよう。
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