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昭和38年(1963年)11月9日午後3時すぎ,三井三池炭坑に突如としてガス爆発がおこり一瞬にして多くの人々の尊い生命をうばった。正直なところ,事故のおきた9日から11日頃まではあまりにも多くの死亡者数にがく然として,生存者945人の状態については多くのことを知らなかつたのである。ところが11月13日(4日め),多くの生存者の中には意識が回復していない人,意識があってもぼんやりした状態であつたり,行動がどうもおかしいと思われる人があるといううわさをきいた。筆者らが現地の大牟田市を訪れたのはその翌口のことであつた。当時の記憶は今も生々しく残つているが,その当時からすでに8年以上もの年月が過ぎ去つてしまつた。おそらく多くの人々は三池の災害を忘れかけている頃であろう。しかしその後も大都市のアパートの一室で,あるいは工場で,散発的に急性一酸化炭素中毒はおこりつづけている。人類が火を用いはじめた大昔から,原子力を手に入れることの出来た現在にいたるまで一酸化炭素中毒の発生はつづいているのである。現在大牟田労災療養所長として中毒患者のメンタルリハビリテイションに努力された安河内五郎博士によって「急性一酸化炭素中毒」と題したモノグラフが完成されたことは誠に喜ばしいことである。本書の内容は,一酸化炭素中毒ガスの説明から,一酸化炭素中毒の機序,病理解剖所見,臨床症状,経過,予後,後遺症,診断,治療,慢性中毒,さらに付として三池における中毒患者の社会復帰の問題まで解説が加えられている。簡潔な文章の中に重要な観察事実をもらさず記載しており,特に著者が苦心された回復期の問題—後遺症としてし精神症状,特に性格変化の解説などは教えられるところが多い。すべて解説は平易な文章で記述されており,ひろく一般医家にもおすすめしたい一酸化炭素中毒の手引きの書である。
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