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本書は6章からなっており,第1章では始めにパーキンソン氏病を中心に筋緊張および異常運動の病態生理とそれに対する定位脳手術の原理を平易に解説している。次いで,その膨大な自験例の中から約1000例の患者を選び同疾患の分類,手術適応の選択,治療成績,合併症について統計的分析を行っている。術後成績の上で特に問題となるのは,両側Thalamotomyの場合であるが,これについては,別に第2章で250の症例をもとに,精神症状,言語障害,嚥下障害,片麻痺,平衡障害等の各問題点を詳しく論じている。L—DOPAについても短く触れているが,パーキンソン氏病の手術適応がすべてこれによって置換されるものではなく,むしろ互いに補い合う治療法として発展して行くことであろう。その意味で新しい治療薬の始る以前のDataとしてここにあげられた統計は貴重なものといえよう。第3章は企図振戦を伴う各種疾患についての記載で,この中には家族性振戦,多発性硬化症,変性疾患,その他が含まれている。企図振戦は不随意運動の最も基本的なモデルであり,パーキンソンの振戦と本質的に共通の現象(dentatofugal pathwayの障害)を含んでいるというのが著者の考えで,手術部位としても同じVL核を狙っている。10年間の追跡調査で83%に振戦の消失を見るという優れた成績を示しており,手術適応の決定には同時に存在する他の神経症状の検討が重要だと強調している。第4章のDystoniaには最も紙数を割いており,著者が最も力をこめて書いた部分であることが感ぜられる。症例も豊富で,ありとあらゆる形の姿勢異常がここには示されており,それらがいずれも手術によつて美事に機能を回復し,社会へ復帰して行く様が経過を追って示されている。欲をいえば,術前・術後の比較をもっと動きのある写真で示してほしかった。また,Dystoniaの際,手術巣の範囲をVL核からVPLVPM,CMの一部迄拡げることの生理学的な意味について今少し詳しく述べてほしかった。第5章ではHemiballismについて簡単にのべているが,その病態生理や剖検所見については,相対する幾つかの意見があり,余り結論的なことはいえないというのが現状であろう。以上5つの章で個々の不随意運動についての記載は終る訳だが,異常運動の典型の一つともいうべきAthetoseについては殆んど触れていない。僅かに第4章の終りに,dystoniaとの関係をのべているが,Athetoseが定位脳手術の適応外にあると考える著者の立場から見ればこれは当然のことであったのかも知れない。しかし"Involuntary movement disorder"という本書の表題からみれば,これを省いたことは多少物足りない点であるといえよう。
全体を通じて症例が豊富で,写真,グラフ,シェーマをうまく利用し文章も平明である。不随意運動の客観的表現法については,各動作の連続分解写真,クロッキー,重ね描き等を用いてかなり苦心しており,その試みは一応成功しているといえる。読み終えて感ずることは,従来のChoreer, Athetose, Ballismus,Dystonie Intention tuemor等といった表現が新たな神経生理学の目でそろそろ見直され,分類し直されねばならぬ時期に来ているのではないかということであつた。
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