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1.スカルパの三角(Scarpa's femoral triangle)
鼠径部において,「鼠径靱帯と縫工筋と長内転筋で囲まれた三角形状のくぼみ」を「スカルパの大腿三角」と呼ぶが,これを解剖学的に詳述したのがパヴィア(Pavia)大学の解剖学兼外科学教授のスカルパ(Antonio Scarpa:1752~1832年:図1)である(余談になるが,イタリアの大学では伝統的に解剖学教授は外科教授を兼ねており,かのヴェザリウスやファブリキウスも然りである).また,スカルパは剖検から「滑脱ヘルニア」を最初に詳しく記載している.スカルパは18世紀に器官病理学を打ち立てたボノーニャ大学の病理学者モルガーニ(Giovanni Battisita Morgagni:1682~1771年)の一番弟子であり,非常に熱心に,かつ厳しくパヴィア大学の医学部教育の近代化に取り組んだことでも知られている.
ヨーロッパの大学医学部では歴代教授の骨格標本や頭蓋骨が遺されているというようなことがままみられるが(図2),驚くべきことに,パヴィア大学にはこのスカルパの頭部・生首が標本として遺っているのである(図3).その点に関して,解剖標本の不足(この頃のイタリアでは人体由来の解剖標本が不足していたため,盛んに蝋性の解剖標本,いわゆるワックス・モデルが造られていた)を補うために保存したものと思われるが,医学教育の近代化に尽力した偉大な教授の顔を後世に遺すためとも,はたまた,前述したように非常に厳しい教授であったことから,弟子や学生たちが恨みを込めて保存したとも言われている.耳鼻科領域では前庭神経節(ganglion of vestibular nerve)や第二鼓室を発見しており,特に前者の神経節は「スカルパ神経節」という冠名で呼ばれている.
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