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医学書院刊行の電子顕微鏡による細胞組織図譜第1巻が発刊された。総編集は山田英智,内薗耕二,渡辺陽之輔の三氏で解剖学,生理学および病理学の視野の投影が企てられていると考えられるが,全6巻のうち差当つてこの第1巻は山田英智,山元寅男,渡辺陽之輔三氏の編集によつて総論,循環器,血液および造血器にあてられている。本の体裁からいうとA4の大型版で,総アート207頁,右側の全頁を写真にあて,左側に解説を附してあつて,この種のアトラスとしてはもつともゆきとどいた形である。電子顕微鏡写真の原図の選択もまたその印刷も目下の技術では最高に近い仕上りであつて,何よりもまず存分に電子顕微鏡写真をたのしむことができる。それはこの本が,いわば当代の日本のもつともすぐれた電子顕微鏡学者の作品の収集である故当然のことではあるが,読者にとつてまことにありがたいことである。
ところで,この第1巻の内容に立入つて通読してみると,1種の"スタンダードのテキスト"としていろいろなことを教えられるほかに,私はまたいろいろのことを考えさせられた。そのひとつは,当然のことながら,総論として記述されている細胞についての記載がもつとも系統的なまとまりを備えているという感想であるが,そのことは反面,たとえば心臓,血管,血液,造血器などの器官または組織レベルの電子顕微鏡的とりあつかいのむずかしさを改めて思い知らされたということである。もちろん,電子顕微鏡の技術はきわめて新しいものであり,征服すべくして残されている対象は無限であるから,ある限られたスペースで,問題のすべてを表現することはできない。また主題を選択するにしても,実際いいオリジナルな写真のあらかじめの貯えがなければ,アトラスの形に整えることはできない。その制約は目下の段階では所詮まぬがれることのできぬものである。それにしても,われわれは,何を見たいと思い,何を知りたいと思い,また何を表現したいと思つて電子顕徴鏡をつかうのであるか。電子顕微鏡が高度の可能性と尖鋭度をもつ一面,きわめて狭いfocusのしぼられた検索手段であるだけに,"スタンダード"と"基礎"の提供ということのむずかしさは,編集者の当然悩まなければならない課題である。
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