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「電子顕微鏡による細胞組織図譜」(山田英智・内薗耕二・渡辺陽之輔総編集)の第6巻として「腫瘍」の編が刊行された.この巻は太田邦夫教授の編集によって成り,小野江為則教授以下86名の執筆者が参加した.執筆者のなかには台湾大学,南カリフォルニア大学など若干海外の大学の研究者も加えられている.内容は総論と各論より成り,総頁372頁,偶数頁が説明および記述に,また奇数頁はすべて写真にあてられているから,およそ340の図版を収載して,A4版の堂々たる図譜である.最近,類書は皆無というわけではないが,腫瘍一般を内容とする電子顕微鏡図譜としては,内容,体裁とも第一級の書物ということができる.基礎・臨床を問わず,腫瘍学に関心をもつ専門の人々にとって好個の参考書であるばかりでなく,ひろく生物学にかかわる人々にも有用であろうと思われる.
ただ,私は全巻の内容を通覧し,さらに太田教授の序文を拝見して,図譜という形での,腫瘍の電子顕微鏡的取扱いの表現と整理のむつかしさをあらためて痛感した.腫瘍形態学への電子顕微鏡の導入において,究極的に期待されるのは分子レベルでの構造と機能の相関に即しての「腫瘍」の理解であり,序文の言葉を借りれば「動的な病理学的特徴や生化学的動態の場の同定」であろう.そして,それは「総論」において整理・表現されるはずのものである.しかし,太田教授もいわれるように実は現状では「総論,は各論領域での所見の抽象であるが,残念ながらまだ望むべき多くのものをのこしている」これは,本書の場合でも決して「総論」執筆者の不勉強ということではない,否,むしろこの本の総論には,石川栄世教授らの腫瘍細胞核への正面からのアプローチを中核に,小野江教授ら,菅野博士らの力作が組込まれ,腫瘍ウイルスについても一流の担当者の寄与がある.それにもかかわらず,あるいはむしろそれ故にこそ,この領域になお「望むべき多くのもの」があることをあらためて思い知らされるのであり,その意味でこの本の総論はひとつの道標として評価されよう.
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