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■第27回英国神経病理学会
1965年1月30日,土曜日の早朝,ロンドン市街には低く垂れこめた雪雲のもと,全人類の哀悼の注視をあつめてチャーチル卿の国葬の列がWestminsterからSt. Paulに向かつて延々と続いていた。その重々しい規則的なリズムのほか,まるでロンドンじゆうの物音がすべて死に絶えた静けさであつた。時折,空に溶けこんだ灰色の粉雪が黒々と沈黙した群集の頭上に舞いおりた。
第27回英国神経病理学会2日目のプログラムは,ユニオン・ジャックの半旗も沈鬱なQueen Squareの会場で,静かに進められていた。午前10時,座長Prof. P. Danielの提言で大型テレビがスクリーンの傍に運びこまれ,あたかもSt. Paulの祭壇に安置された世紀の偉人のために会員一同黙祷。座長,そしてProf. D. Russell, Lumsden, Norman, Cumingsらとともに,私も最前列の端の席からブラウン管の中に移ろう巨大な脳の死を凝視した。テームズの河面でウォータールーに向かつて遺体を運ぶランチがたゆたうとき,日頃乱立する河畔のクレーンの林が,いつせいにまるで生きもののように頭を低くたれ,ジェット機の一編隊がタワー・ブリッジすれすれに袂別の叫びをあげたとき,人々は一様に偉大な英雄の死を涙をもつて見送つた。この美しい光景に結びついて私とRussell先生との初対面が脳裡にやきついて離れない。岡治道教授をひとまわり大きく,そして性転換したといつた形容の,まつたく福々しいおばあさんで,私の会つた英国女医学者三傑の筆頭としてまことにふさわしい方であつた。——(あとの二人は肝の病理,Prof. S. Sherlock,脳外傷のDr. S. Strich)。
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