書評
—G. H. DuBoulay 著—PRINCIPLES OF X-RAY DIAGNOSIS OF THE SKULL
工藤 達之
1
1慶大脳神経外科
pp.1018
発行日 1965年10月1日
Published Date 1965/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406201929
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かようなことをいうとお叱りをこうむるかもしれないが,わが国の臨床医学のなかで一番たちおくれていたのは,放射線診断学ではなかろうか。というのは,10年ほど前に米国に遊学したさいにうけた印象があまりにも痛烈だつたからである。カンファレンスにでると若い放射線科の医師が立つてレ線写真を前にトウトウと述べたてる。言葉の判らぬうちは此奴どうかしているのじやないかと思つていたが,次第に耳が馴れてくるに従つて,その内容の確かさ,医学全般にわたる知識のひろさに敬服させられてしまつた。それからは本職の外科よりも,レ線診断に熱を入れたものであつた。
戦後急速な脱皮をなしとげた医学界で放射線科のなしとげた進歩はいちじるしい。しかし,われわれの希望する「放射線診断はすべて放射線科医によつて」なされるシステムの成立は,ほど遠いように思われる。それはわが国の放射線科の占めてきた位置からみても,放射線科自体の努力の上に,他科の十分な理解と協力がつみあげられなければなしとげられないものと思われる。さて,このよのな余話にわたつたのは,本書がどれほど役にたつかとゆうことを述べるためである。上述のような理想的な診療体系ができあがれば,われわれは安んじて本職の神経外科学に専念できることになるはずなのだが,残念ながら実情はそうではない。現実にはかなりの時間とエネルギーとをその知識の獲得と実地に費さなければならない。もつとも,比較的制度の確立しているかにみえる英国でも,全面的に神経放射線科医にたよるわけにはゆかないようだから,程度の差こそあれ,神経放射線科の領域に関しては同じことかもしれない。
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