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I.緒言
脳の構造はきわめて複雑でかつ局所的相異を示すので形態学者は細胞—,髄鞘—ないし線維—,神経膠—,血管構築的研究より脳各部の機能の解明に努力してきた。一方,最近長足の進歩をとげた組織化学的技術を脳組織に応用して脳の各部,層,核における物質の分布の差より化学構築(chemoarchitectonics)(Scharrer23))なる概念が導入され脳の代謝および機能の解明に幾多の貢献がなされている。
さて,脳組織はその代謝,機能を正常に維持するためのエネルギーを主として含水炭素の酸化より得ている。すなわちグルコースまたは糖原(G)は嫌気的状態のもとでEmbden-Meyerhofの図式すなわち解糖によねつてピルビン酸(または乳酸)となり,後者はさらに好気的にKrebs’TCA-cycleを経てCO2)とH2)Oに分解され得られた高エネルギー燐酸化合物が神経作用に利用されるとされている(Himwich10),Mcilwain18)ら)(第1図) さらにWarburg-DickensのHexose-monophos—phate (HMP) shuntも明らかに存する.その意義はかならずしも明確ではないが,TPNH産生系として重要物質の還元的生合成や核酸合成に重要であると想像されている(Klingenberg11)ら,Beaconsfield3))。糖質代謝に関与する物質,酸素のなかで現在までわれわれが組織化学的に証明したものはG (清水,熊本27)),解糖系,HMP-shunt,TCA-cycleに属する酵素すなわちフォスフォリラーゼ(清水,岡田30)),アルドラーゼ(Ald)(阿部,清水1)),乳酸脱水素酵素(LD)(松並17)),グルコース6—燐酸脱水素酵素(G−6—PD)(阿部2)ら),コハク酸脱水素酵素(SD)(清水,森川28)),アコニターゼ(AC)(山川ら34)),イソクェン酸脱水素酵素(未発表),リンゴ酸脱水素酵素(未発表),チトクローム酸化酵素(清水29))ら,山田33))などである。これらの脳内における局在の特長と各部の代謝,機能との関連を主として正常脳で追及したのであるが,病的条件下,たとえばanoxia,脳外傷時にどのような組織化学的変化を示すかを知ることは興味あることと思われる。
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