書評
—岩波文門著—臨床小児神経症/—塚田裕三編—脳の生化学
中江 亮一
1
1名古屋大学
pp.1050,1064
発行日 1964年12月1日
Published Date 1964/12/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1406201748
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化学療法その他臨床医学,予防医学の進歩によつて最近伝染病が少なくなり,その反面神経症的なものが多くなつてきた。また診断および治療の進歩の結果,臨床医学が臓器的に細分される傾向に進んで,総合的な人間というものを忘れがちになつてきた。しかし従来小児科では総合的な全体,すなわち一人の発育しつつある人間を考えてきた。さらに,一人の小児をみるだけでなく,ある環境におかれた小児,社会にある小児としてとり扱わねばならない。ここに精神身体医学的な考えが生まれてくる。病める小児の治療には精密検査を応用して身体細部臓器の病変を追及し,これに対し適当の治療を加えると同時に,患児の精神的な面を考慮に入れて患児を人間として総合的に観察し治療する必要が生れてくる。この時にあたり,本書が刊行されたことは誠に時宜を得たものである。しかも本書が経験の豊かな小児科臨床医によつて書かれたことに重大な意義がある。
本書はまず総論と各論とに2大別され,総論では,神経症の概念から解き始めて,神経症と精神身体症との関係を歴史的にあるいは臨床面において記述し,これを小児の特徴,精神および運動機能の発達と結びつけて論じている。すなわち診断面では保育者も含めて小児を身心両面から慎重に観察する必要を述べ,場合によつては心理学者や社会指導者(ソーシャル・ワーカー)の協力が必要であると述べ,ついで自律神経機能検査法が詳述してある。治療面では成人神経症と異なり,両親および家族を含めた面接指導,あるいは遊戯療法が重要であると述べている。
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