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戸塚文子著—「素顔のアメリカ」
pp.25
発行日 1960年5月10日
Published Date 1960/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1662202087
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いかにも戸塚さんらしい本である.旅行マニアの戸塚さんが,ふだん着でブラリとアメリカへ出かけていつて,ふだん着のアメリカの姿を見たまま感じたまま随筆的につづつた一種の旅行記である.
この本を読むとアメリカというところは,1,2の点をのぞけば日本とそう大した違いはないということになる.ニューヨークの中心部にある高層ビル街のサラリーマンも,ひるめし時には出前のサンドウィッチやカツを食べている.まるで丸の内や銀座界わいのサラリーマンと同じようなランチ・タイム風景である.また郊外の住宅地にあるスーパー.マーケットにしても,品物が豊富で1ヵ所で家庭用品がすつかりそろうという便利さだけで,とくべつアメリカへ来たという感じがしないという.街を歩く女性の服装も日本よりむしろ地味なくらいで,目立つたおしやれをしているのは,劣等感の強い黒人女性くらいだそうである.ただ戸塚さんが驚いたのは,徹底的に合理化された家庭生活ということらしい.たとえばアパートの住人が家主と賃貸契約を結ぶとき,書類に「常温○○度」という字句を入れることになつている.そしてもし機械の故障で,この温度が少しでもくずれると家賃の値引き交渉ができることになつている.つまり,夏は涼しく,冬は暖かく,いつも健康的な生活ができるように管理されているわけである.日本人には考えられないようなたくましい合理主義精神である.
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