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1.序
1940年Landsterner K. 5)Wiener A. S. が血液のRh因子を発見して以来,1941年Levine6)P. 等は新生児にみられる胎生赤芽細胞症(新生児重症黄疸,新生児溶血性貧血,胎生水腫を総括)がRh因子による母子間の同種免疫Isoimmunisationによつて起るものであることを明らかにした。即ち母体がRh(-)であると,Rh因子は優性遺伝をなすので胎児の多くはRh(+)となる。胎盤は通常,血清は通すが,血球の通過を許さないので,初妊娠は無事であるが*,第1回分娩を経過すると,胎盤血管亀裂などによつて胎児血球の母体移行が考えられるので母体にRh-抗体の産生が促がされる。このため第二子以後では分娩を繰返す毎に益々抗体産生が増加し,母子間の同種免疫によつて妊娠未期より胎児に溶血,貧血を惹起し,各造血巣を刺戟するので未熟赤血球の大量が末梢血に出現する。これが胎生赤芽細胞症の原因といわれる4)。このため胎児に高度の貧血,胎生水腫が起り,多くは死流産の因となるが,出生しても蒼白胎盤,新生児の貧溶血,肝脾の肥大が認められ,既に第1日目から新生児重症黄疸を発して死亡することが多い。この新生児重症黄疸は同じく新生児にみられる黴毒,敗血症,輸胆管閉塞などによる症候性黄疸と異つて,剖見すると脳幹部の神経核が黄染して核黄疸Kernikterusを呈しているものが多く,哺乳微弱,強直,嘔吐,痙攣等の脳症状を伴うのもそのためである。かくの如く,Rh因子—同種免疫に基く黄疸は出生直後に発現するものが多いが,遅いものでは1週間後に発病するものもあり,多くは半月又は1ヵ月も続き,その間に大多数が死亡する。しかし幸ひにして死を免かれると,やがて数ヵ月内至1ヵ年を経てから次第に錐体外路性の運動症?を伴う脳性小児麻痺の像を呈してくるのであつて,この点を初めて指摘したのはPentschew7) A.(1940年)であつた。彼によると,かゝる場合に認められる筋緊張や筋協働運動の障碍,不随意運動等の諸症候は何れも第4脳室周辺及び小脳に在る錐体外路系中枢り神経細胞が核黄疸のために侵された結果によるものであって,Encephalopathia posticterica infantum7)(E. p. i. と略記)と呼ぶのが至当であるという。
Rh—因子の人口分布は人種によつて非常な差を示し,白人では人口の85%がRh(+)であるが,有色人種(日本人を含む.)ではその98.5%までがRh(+)であって,Rh(—)の者は稀有である4)。このため我国では輸血においても妊娠においても血液のRh—因子に関しては殆んど顧みられるところがない。殊にSchneideri11)C. L et allによると,Rh(—)者が15%を占める欧州においてさえ,Rh—因子に起因する妊娠合併症の出現率は全妊娠の0.5%に過ぎないと言われているので,Rh(—)者が1.5%に過ぎない我国におけるこの因子による妊娠危険率は0.05%の小率となる。かゝる点から考えても我国におけるRh—因子同種免疫によるE. P. i. の例は極めて稀有に属するといわねばならない。
At present it is generally accepted that a fetal erythroblastosis followed by an encephalopathia posticterica infantum which develops extrapyramidal motor symptoms. Fetal erythroblastosis is due to the isoimmunization of mother and fetus. Few cases of encephalopathia posticterica infantum have been reported in Japan, because there are fewer Rh-negative among the Japanese than among the white.
The patient, 18 old male, is the 2nd child of an Rh-positive father and an Rh-negative mother. He is Rh-positive. His elder sister has enjoyed good health. But his other 5 siblings were dead either from stillbirth, or from icterus neonatorum gravis. He had slight jaundice at birth. At l year of age he began to develop typical extrapyramidal motor symptoms. At present he has muscular dystonia, disturbance of coordination, and athetotic movement. He is normal in intelligence.
Recently it has been assumed that encephalopathia posticterica infantum may be rather due to an impaired oxidation in the embryonal brain tissues than to post-partum jaundice of nucleus. This case report seems to support the above menthined hypothesis, because this patient had only slight jaundice at birth.
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