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終戰後,わが國の精神醫學界や腦外科學界の話題の焦點になつた前々頭ロボトミーも,來年度の日本精神々經學會の宿題報告のテーマにえらばれるようになつた現在,ようやく一應の反省をこゝろみてよい時期に入つたように思う。いまゝで雜誌や學會に發表された研究報告は,手術手技に關するもののほかは,前々頭ロボトミーによる治療成績を,たとえば良・可・否といつたような,いわば常識的な判斷をもつて評價したものが多かつた。そして私のうけた印象では,その治療効果をたかく評價するような統計結果や症例報告が過半を占めていたと思う。反對に,前々頭ロボトミー(以下たんにロボトミーと略稱する)のもたらす病像の變化やその結果として殘る精神的缺陷像を,精神病理學の立場から反省しながら追究した研究報告は,意外にすくなかつたようである。これには,ロボトミーによる精神的缺陷が,從來慣用されてきた諸種のテストのうえには露骨に現れることがなく,長い期間にわたつて患者の日常生活を觀察してはじめてその輪廓を知ることができるという已むを得ない事情があつたのであろうが,しかし,一般にわが國では精神病理學的な關心が薄かつたことも否みがたい一つの理由であろう。
ロボトミーは,人間の前頭腦視牀徑路が精神病のある種の症状を形成し固定するのに決定的な役割りをはたしているという假説のうえにたち,この徑路を機械的に切斷することによつて治癒にみちびこうとする大膽な療法である。この假説は卓拔な著想にもとづくのではあるが,從來の腦病理學や精神病理學の經驗からみて,論理的に割りだされた定説であるとは言いにくい。この假説の正否は,むしろロボトミーそのものの經驗によつて實證されるといつて良いであろう。それだけに,ロボトミーの評價は一そう愼重に行われなければならないはずである。
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